こんにちは。市役所勤務の訪問美容師、大坪亜紀子です。
新型コロナ感染者が60人台でとどまっている栃木県ですが(6月20日現在)、関東圏ということもあり、緊急事態宣言発令後は下野(シモツケ)市でも緊張感ある自粛期間を過ごしていました。美容室、飲食店の休業はもちろん、様々な影響が出ていることはここでも変わりはありません。
私は、地域おこし協力隊として市の業務にも携わっているので、少しバタバタと過ごしながらも5月の連休明からは、訪問美容も忙しく動いています。
動ける美容師だから感じたこと
この1ヶ月、約50名の髪を切らせていただきました。もちろん、感染防止対策を徹底し、私自身も万が一のことを適切に怖がり、無理をせず断ることもしました。 共通認識を持ったうえで、知人もしくは知人からの紹介のみとしました。
施設の入居者の方も、最初は職員の方からの紹介や、顔見知りのお年寄りのお部屋からお邪魔したのですが、施設の同居人がスッキリにすれば私も俺も! と後日の予約が増えていき、あっという間に30人ほどに。
外出できない知人のママの伸びきったバランスの悪いショートを整え、外出できない今だからできるデザインカラーにし、子どもたちの髪もすっきりさせたら同じマンションのお友達が私も僕も! と紹介の方が増えていき、その投稿を見た知人からメッセージが届き、ますます増えていったこの1ヶ月。
コミュニティってすごい。こんな時だからこその流れなのかな。でも、美容師としてその輪に入り込むとどうなるかを体感した1ヶ月でもありました。ありがたい! ただ、この期間に私は1つ大きなミスをしました。ミスは2度としたくないっていつも思うんだけど、すると得るものが大きいんだよな~……。
85歳のお客様
初めて担当する、施設で過ごす里子さん。白髪頭に淡いグリーンの洋服を着て、背が小さい里子さんの第一印象は「かわいらしい方」。おしゃべりも好きで、髪型のオーダーはハキハキ伝えてくれた。寝ぐせかな? と思ったけれど、パーマをかけ続けている髪はジリジリしていて良い状態ではない。そして、前情報では少し認知症が進んでいるとのこと。
「前回はパーマをグルグルにされて気に入らなかった。今回は耳が隠れるくらい長めで、パーマは緩くお願いね。次に短くして、パーマをしっかりかけたい。」
髪が傷んでいることも、本人はわかっている。大きな鏡の前で慎重にカウンセリング。カット中もパーマ中もいっぱいお話をした。印象どおりかわいらしい方で、終わった後もニコニコしながらお部屋に戻っていった。
2週間と少し過ぎたくらい、里子さんがパーマが落ちたと言っていると職員の方から聞いた。白髪はパーマがかかりずらいし、取れやすい。あぁ、私も感覚がまだつかめていなかったのかな、なんて思いながらお部屋に話を聞きに行く。見た感じ、パーマは取れていない。一瞬にして、認知症が進んでいることを思い出す。今回はパーマを緩めにかけて、次にしっかりかけようって話、忘れちゃったのかな?
日にちを決めてお部屋に伺っても何でか髪を切らせてくれない。1時間楽しくおしゃべりするだけ。でも職員には、今すぐ髪を切りたいと言っているみたい。それが2回続いたのだけど、会話の中でたまに私にパーマを失敗されたと怒ることがあって、私と前回の美容師さんと勘違いしているなぁ、前回髪切ったことも忘れちゃったのかも?
色んなことがはっきりしたのが3回目。その日は見るからに機嫌が悪くて、「あんたみたいなやり方じゃこの先やっていけない、あんたには私の髪は任せられない」と。
そして、前回のパーマは失敗だとめちゃくちゃ怒られた。さすがの私も言い返してしまったけれど、その後も聞いていくと、里子さんは何にも忘れていなくて本気で私に怒っている。でも、緩めのパーマは要望と髪のダメージをおもってかけたもの、痛みも出ていないし失敗ではない。
しっかり伝えたし、確認もしたし、怒られるはずがない。「前回の髪型はどこが気に入らなかったですか?」そう聞いたときにやっと、今までの色々が理解できました。
そもそもパーマの仕上がりは、里子さんにとって希望の緩さではなかった。里子さんにとって、パーマがかかりすぎることは失敗なんだと私は思い込んでいたから、緩いことが失敗だという考えがない。終わった後にしっかり仕上がりの感想を聞いていれば、こんなことは起こらなかったかも。
満足いっていないことがその場でわかればパーマをかけ直すことだってできたし、すぐに謝っていればこの期間、里子さんに不快な思いをさせることはなかった。ただ、私のプライドが高かった。
「仕上がりはいかがですか?」の一言を聞けなかったことで生んだズレ。そう思っていたと気づいたときに、私は平謝り。もう1度パーマをかけさせて下さい、と素直に謝ることができたら里子さんの顔色が一気に変わった!
「今まで色んな人見てきたけど、私にここまで言われてあきらめないなんてあなたみたいな人初めてよ。商売は甘くない、でもあなたなら大丈夫ね、私の頭貸すからもう1度やってみなさい。」
私は人生の大先輩に試されていた? すごくないですか? 見抜いていたのかな? 色々な先入観の中で起こしてしまった自分のミスも認めながらも、いやぁ本当にありがたい。(初回の髪型が気に入らなかったのは確かだし、私がただただしつこいだけだったのかもしれないけど……)
こういったお年寄りが里子さん以外にいるかもしれないし、いないかもしれない。ただ経験しないよりは、してよかった経験。アフターフォローをしっかりすることで、訪問美容の価値がもっと上がるなら私は妥協なくチャレンジしていきたい。技術も上がるし、こっちのほうが楽しいしね!
その後、里子さんとはすっかり仲良し。この先認知症が進んでも記憶に残ってくれたらいいな。
こんにちは、市役所勤務の訪問美容師 大坪亜紀子です。 今回は、今までとは少し違う経験談のお話を。 目次 1 「訪問美容師…